亡き王女のためのパヴァーヌ

◎よく聴く曲、または特に思い入れのある曲、壱の5。


  亡き王女のためのパヴァーヌ

  「Pavane pour une infante defunte
   /Maurice Ravel」

   piano:Samson Francois


ラヴェルのお話が出たので、もう1曲。
私はこの「亡き王女のためのパヴァーヌ」
が大好きです。

ラヴェルの音楽は「詐欺の美学」と言われます。
彼は、芸術はインスピレーションではなく
洗練された緻密な計算による眩惑であると語りました。
「もしもこの音楽が貴方を楽しませたり、涙するほど感動させたとしても、それを作曲した人は、決して涙を流しながら作曲したのではない。すがりつくようにその曲を書いたのではない、と知るべきだ。」

彼は自分の作品にも皮肉的でした。「スイスの時計職人」と呼ばれるほどその音楽は計算と頭脳で作られており、ハートが無いと批判されたラヴェル。周りの人々は、それは彼一流の仮面であるといい、ラヴェル自身はそれは自分の血であると笑いました。

芸術は本能なのか、計算なのか。
「両方でしょ」と冷静な人なら答えるかもしれません。
ただ並外れた本能と、桁違いの理性を持った場合
その危ういバランスは人間の業苦とも言うべき激痛を
当人だけでなく、周りの人々にも与えるのかもしれません。


彼が20歳の頃に作った曲に「古風なメヌエット」という作品があり、私はこの曲も好きです。かなしい不協和音と、強く進んでいく力。途中で優しい流れに変わり、そして静かにまた不協和音へと戻っていきます。

壊れた時計が、つまづきながら時を刻み
そして永遠に止まる迄の
最後の十二時間のような音楽です。

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