かづら

つる植物のことを「葛 - かづら」と言います。
前回に紫式部のお話をしたので、源氏物語の「玉鬘」を思い出したのだけれど、たまかづらの「かづら」はつる植物ではなくて、美しい髪を意味する「鬘」でした。


玉鬘は光源氏の元恋人、夕顔の娘でした。父親は源氏ではなく、彼のライバルだった頭中将です。母親夕顔が亡くなった後、消息不明になっていたこの娘がひょんなことから田舎で見つかり、しかもえらい美人という噂を聞き、源氏はなんだかんだと理由をつけて自分の家に引き取ってしまいます。

すっかり中年のおじさんになった光源氏はかなり助平。
賢い玉鬘は毎日、なんとか手を出そうとする
源氏の口説き攻撃をかわしにかわしますが、
けっこうぐったりの日々。かわいそう....

自分のモノにしようと企むだけでなく、源氏の君はある日、紫の上にこんなふうに話します。「いやぁ、田舎者かと思ったら素晴らしい娘じゃないか。こうなったら『源氏の家にすごい美女がいる』っていう噂を流して、群がる男が願いも叶わず右往左往するのを眺めて楽しもう♪」
「んまぁ、なんてお人の悪い。」と紫の上に言われても
「ふっふっふ」と全く動じない光源氏。ううむ...悪趣味だ。

そんな源氏の作戦に、みごと引っかかった兵部卿の宮。彼は源氏の実弟です。ある日、まんまと彼が玉鬘を訪れると、源氏は裏でこっそり薫物を焚いてムードを盛り上げるおせっかいぶり&盗み聞き。兵部卿の宮が必死に愛を語っている間、あまり気乗りのしない玉鬘が御簾越しに静かにしていると、そこへすっと源氏の君が寄ってきて何かを放しました。

とつぜん、ふわっと几帳越しに照らし出された、玉鬘の美しい素顔。玉鬘は驚いて、慌てて扇で顔を隠します。彼が放したのは蛍だったのです。
想像以上の美人だったことに、兵部卿の宮はドッキドキ。源氏オヤジの思惑通り、しっかり姫君にぞっこん惚れてしまいます。作戦大成功に大喜びの源氏でした。


「蛍を放す」という発想がなんとも風雅ですが
しかし魂胆は相当悪趣味な源氏の君。うーむ
だれかこいつを止めてくれ、とおもわず思ってしまう
「源氏物語 第二十五帖 螢の巻」は、源氏36歳の夏でした。

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