私は寺院で育ったので
書や墨には、何とも云えない懐かしさがあります。

祖父の書院にはいろいろな大きさの筆があって
私はよくその筆架を眺めていました。
墨の匂い、和紙の手触り、硯の滑らかな陰影
使い込まれた筆の古びた美しさ
私が思い出すのはそんなことです。


きっと人の心の中には、過ごした日々が
深く静かに沈殿していくものなのかもしれません。
そうして忘れられ、ふとした折に
琴線が弾かれるのを待っているのでしょうか。

春、桜とともに息吹いた樹木たち
細い枝の先にはたくさんの小さな芽。
絶え無い四季の廻りは、私に
幸福と諦念を与えて行きます。

静かな墨絵のよう。

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