木は歌う

大きな大きな槐の木。

「槐」と書いてエンジュと読みます。
街路樹にもよく使われているこの木は
漢方でも止血剤として使われる薬用植物です。

私がこの木の名前を初めて知ったのは
とある材木屋さんの在庫処分市でした。
雑多な切り株や、ベニヤ板と一緒に積まれていた
1枚の美しい板。

断面の樹皮に近い部分は、優しげなベージュ色
芯に近いところは滑らかな杢目を持った暗褐色の
それはそれは、綺麗な板でした。

「ああ、それ。エンジュですよ。きれいでしょう?」
私がじっとその板の前で立ちつくしていると
店主のおじいさんが声をかけてきました。
市場の最終日、もう閉店間際でした。
何に使うかも決めずに、気がついたら私は
この心魅かれる板を買ってしまっていました。

このマメ科の植物には、可愛らしいお花が咲きます。
学名を「Sophora japonica」というエンジュ、
ソフォーラはアラビア語で「蝶のような」という意味。
染織では、この蝶々のような花の蕾から
とても鮮やかな黄色を染めていました。

 
 
樹木をじっと見つめていると
彼らが歌っているような気がすることがあります。
太陽に、風に、雨に、大地に。


大きな大きな槐の木。
さやさやと光を誘う、いくつもの枝葉。
蝶のような可愛い花、お日さまのような黄金色と
美しい断面を持った癒しの木。


私もあなたのように
美しく歌えたら、と思う。
 

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