春風の 花を散らすと 見る夢は
さめても胸の さわぐなりけり
( 西行 「山家集」より )
花の散る夢を見たことがありますか。
この歌は西行が、清和院の斎院での歌会で
「夢中落花」という題が出された時に詠んだ歌です。
夢の中で落ちる花。
春の風が、桜の花を乱々と散らしゆく夢を見た。
目覚めてもまだ その儚さと凄絶さ、妖艶さに
狂おしく胸が騒いでいる。
花の美しさとは、あまりにも唐突にこの世を見捨てる
その冷酷さ、とも言います。
柔らかな微笑み。
そして残酷な喪失。
短いその命を人の運命にもたとえて
西行は、多くの歌を詠みました。
舞う桜、散る桜。
軽やかな濁流に呑み込まれるように人々は
この束の間の、春の宴に陶酔します。
桜の語源は、穀物の霊を表す古語の「サ」と
神や霊が宿る場所を示す「クラ(座)」という言葉が
合わさって「サクラ」になったという説があります。
農耕民族の信仰に
深く関わってきた花。
桜は、神の座。
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