アラベスク

 
  青い空 青い海
  南の島の歌

  白い花が咲く頃 娘は産まれ もらった
  花の名前を 娘は もらった


 (「アラベスク」 岩井俊二 )


 
沖縄の言葉で歌われているこの歌。
岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」という映画に使われていた「アラベスク」という歌です。

透明な素敵な曲。
自分の名前…みんなそれぞれ名前の由来には
きっといろんな物語があって。
名前、不思議だね。
私たちは愛しい人にも、自分自身にも
その呼名に、祈りのような想いを寄せることがあります。


私の名前は、祖父がつけてくれました。
大分で生まれた祖父は幼い頃に、静岡にある他家の養子になったので、その時になくした自分の姓の一文字を、私の名前につけたのでした。

「なんだ、おじいちゃんの名字をつけたの?」
「そうだよ。」
「つまんない。」
「そう?」
「でも、その私の名前のもとになった
 おじいちゃんの家族の人たちに会いに行きたいな。」
「ああ、それは無理なんだ。」
「どうして?」
「みんな死んじゃったんだよ。戦争でね。」


祖父は遠く養子にでて、九州を離れていたために
たったひとり戦火から逃れたのでした。
家族や家や、懐かしい風景は
みんな燃えてしまったのでした。

そして何十年か後に祖父は、自分ももう二度と逢えない
人たちの思い出を、私の名前に残しました。
いくつもの偶然が重なって、ひとは死んだりするけれど
いくつもの偶然が重なって
ひとは生きているのかもしれないね。


アラベスクとは、イスラムの装飾デザインで
複雑に絡み合った美しい紋様です。
どこまでも繋がっていく蔓や幾何学図形が交わりあって
入り組んだ複雑な世界を創りあげています。


複雑に絡み合って、いくつもの偶然が重なって
人は人に出逢っていくのかもしれないね。

どこまでも続く、美しい紋様。
 
 

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